「目の前で一人が語り始める」
『present』について大北栄人さんと対談しました
2021/8/15■大北栄人デイリーポータルZで記事と動画(プープーテレビ)を制作し、コントのユニット「明日のアー」を主宰している。監督作がしたコメ大賞2017グランプリ受賞。
8月14日に『present』の通し稽古をした際、大北栄人さんに見に来ていただきました。
翌日の15日、初めてTwitterのスペース機能をつかっての対談。30分ほどとお誘いしOKをいただいたにも関わらず、田崎、ポンコツを発揮し1時間半もの間話に付き合ってもらうことに…。本当にすみません。
文字に起こして公開しても良いと快く承諾してくださったので、少し編集してこちらに公開します。
大北:あ、本題、本題
田崎:本題、あ、すいません。そうそうそう。昨日は見に来ていただきありがとうございました。
大北:あ、いえいえ。10人くらい(見てる人が)いらっしゃったんでしたっけ。
田崎:そうですね、スタッフさんも含めると10人くらいいました。
メロミスが立ち上がりました
大北:どういうお芝居なのかちょっとふわんと、ふわんとしたまま入っちゃったんですけど、これは田崎さんがやっている一人ユニットなんですよね、メ、ロ、ミ、ス、メロミス。
田崎:そうです。去年の3月にメロミスを立ち上げて、最初パフォーマンスを作ろうと思ってたんですけど、コロナのことがあって去年は映像作品に切り替えて。そのときは基本的には撮影も編集も自分でやったんですけど、今回の一人芝居は、私と福岡の劇団の万能グローブガラパゴスダイナモスに所属している横山祐香里さんと二人で書いて、RoMTというユニットを主宰している田野邦彦さんが演出しています。田野さんとは以前にも一緒に一人芝居をやったんですけど、そのときはガリー・マクネアによる『ギャンブラーのための終活入門』という、イギリスの既成の戯曲で。
大北:あ、そうだその告知を見て、その演目なのかなと思って(通しを)みに行って。だから、あれこれ原作あるんだっけって勘違いしてたところがあったんですけど、これは完全オリジナルの話なんですよね。
田崎:そうですそうです。『ギャンブラ~』は少年がおじいちゃんのことを語る作品で、少年を女性の役にして上演してたんですけど、今回田野さんとオリジナルの一人芝居を作ろうという話になって。最初はメロミスでやるって全然考えて無かったんですけど、田野さんに「ユニット立ち上げたんだしそこでやったら」って言われて、「たしかに。ユニットあるんだった」ってなって。
大北:これはユニットでの本格的な芝居としては一発目ということですか。
田崎:そうですそうです、演劇公演としてやるのはこの作品が初めてです。
大北:あ、一回(別の場所で)やったんですよね確か。
田崎:あ、そうです、5月の頭に福岡でやって、そのときに他の地域でもやりたいねって話になって。ほんとは8月に宇都宮で上演する予定だったんですけど、それは延期になって。今度9月に豊岡演劇祭*でやって、その後すぐ横浜のSTスポットでやって、それから10月に仙台の、せんだい卸町アートマルシェ*という演劇祭があるんですけど、そこでも上演する予定です。(※感染状況が悪化しなんと両方とも中止に!)
大北:あ、結構やるんですね。
田崎:そうなんですよ。
大北:なるほどー。
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一人芝居って何だ?
大北:一人芝居っていうのは結構馴染みがあるんですか。すでに一回やってるんですよね。
田崎:そうですね。私は元々福岡で演劇してたんですけど、東京に出るときに演劇から離れて就職しようと思ってて、いろいろあってまたはじめたんですけど、東京で最初に演劇をしたのが一人芝居だったんです。さっきも話にでた『ギャンブラーのための終活入門』っていう約二時間くらいの一人芝居で。一人芝居ちょこちょこやってますね、他の劇団でも。7、8年前くらいに父が脚本演出で私が出るっていうこともありました。
大北:えぇ!田崎さんのお父さんは演劇関係の人なんですか?
田崎:あ、いえ、仕事まではいかないと思うんですけど、シニア劇団の演出を頼まれたり、ちょこちょこやってて。それで一人芝居のフェスティバルの応募があったときに一緒にやろうかってなって。ちょうどその時期におばあちゃん、父のお母さんが亡くなったりとかして。一回親子でやるのもいいのかなって。
大北:あ、御供養だ。
田崎:そう、御供養(笑)で、どんな作品を書いてくるのかなと思ったら、結構な下ネタで。父は寺山修司が好きで、これ面白いからーって家で『田園に死す』とかみてて。だからなのか私はそんな抵抗はなかったんですけど、シニア劇団のおばあちゃんたちがみにきてくれたときに、娘にそんな作品をやらせるなんてってすごい怒られてました。
大北:怒られるんだ(笑)じゃあ結構一人芝居やってるんですね。
田崎:そうですね。結構やってるっていうその基準が分からないけど、、たしかに。
大北:一回以上あれば結構に入るんじゃないですかね。僕も分からないですけど。僕あんま知らないんですよ、演劇のこと。特に一人芝居ってあんまり観たことなくて。久しぶりにみて、ああこういうものなのかぁって感じがあり。場面がめちゃめちゃ転換しやすいですよね。
田崎:ああ、そうですね。たしかに。
大北:今回のやつは特にそういうところをやってましたけど。場面が転換しやすいから映像的だなって思ったり。
見ている人の記憶と重ねてもらう
田崎:たしかに。また今回のように語りでやるっていうのがどういう風にでも飛べるっていうか。
大北:あ~
田崎:今回の『present』は思い出というか、自分の記憶というか、その話をしてその場面に飛ぶという感じだから。
大北:はい
田崎:こういうことがやれたらいいなっていうことの一つに、観客の中でイメージしてもらうみたいな、その場にある舞台セットとかっていうよりは、主人公がすごいデフォルメして語ってる出会ってきた人物たちとかもみてる人の中で補完してもらうみたいな。
大北:うんうん
田崎:観てる人自身の経験とか記憶とかが、何かこうそれぞれの中で立ち上がったり想像が湧くみたいな、そういうことができたらいいなって。
大北:なるほど
田崎:そこに相手の役がいるともうその人でしかなくなっちゃうけど、観てるお客さんが出会ってきた人とかをふと思い出したりとか、こういう感じの人みたいなのが、
大北:あー、なるほどね。具象じゃなく抽象にすることはそういう効果があるんですね。自分の記憶から掘り起こして埋めていく可能性があるというか。
田崎:うん、うん、そう、なんか、そうですね
大北:だから自分の記憶と重層的になりやすいのでは、的な
田崎:そう、なんか、だから隣で観てる人と想像してるものが違う、みたいな。一人一人が違うもので、でも自分の中で一番リアリティがあるものに置き換えてもらうみたいな、そういうことが面白いなっていうのはあって
大北:なるほど、たしかにそうですね。一人芝居で、相手がいない。(登場する)男の子の顔も分からないってことですもんね。その男の子は自分が今まで出会ってきた人からこういう人かなって想像するってことですもんね。
田崎:そうですね、その人自身の記憶とか経験みたいなものに刺激したいなっていうか、そこにアクセスしたいっていうのはある…
大北:なんでアクセスしたいんですか。意地悪な質問ですけど(笑)
田崎:あ、いやいや(笑)なんか…こう…作品の中で、こう…肯定っていうか、それってその人がいないと起きないことじゃないですか。観てる人の今までの経験とかがないと起きない…その経験とかがあるってことを…肯定するっていうと変だけど、一人一人の持ってるもので作品が補われるっていうのが、すごくなんだろう…
大北:まあでも肯定ってことですかね、その人が背負ってきたものですよね、あなたの持ってるそれで埋めて、あら素敵っていう状態ってことですよね
田崎:そうそう、こっちで全部用意するっていうよりは間に何かが生まれるっていうのがいいなっていう
大北:なるほどね、そうか。みなさんよく考えられてますよね、なるほどー(笑)
田崎:一人芝居もいろいろあると思うんですど。演出の田野さんが自身のユニットのRoMTで語りの手法をやっていて、だから私がはじめたんじゃなくて、田野さんの企画のなかでやったときに、いいな面白いなって。何もないけどみてる人の中で景色が立ち上がるのが、すごいいいなって。想像するってなんか希望というか。人間の。他の生きものになったことないから分からないけど、ロボットとかじゃ代用できないところってなんだろうとかって考えたときに、イメージをするって…
目の前で語りが始まること
大北:たしかにそうですよね。あの、サピエンス全史的な話すごい気に入って何回も言っちゃうんですけど、目の前で人が語るみたいなこと…集団としてまとまるために嘘をつくようになったお話というか、それで物語が生まれたんじゃないか説があるじゃないですか。物語っていうものがどうしてあるのかといったら。
田崎:へぇー
大北:集団としてまとめ上げるために神話とかつくったりとか、向こうで俺たちの仲間が殺されたからみんなで殺し行こう、とか。それがあるからホモサピエンスはいろんな動物に勝てた、みたいな話があるんですけど。
田崎:へぇーー
大北:その話をよく考えてて。特にコロナ禍において映像配信ってどうしたって目の前の演劇に負けるなって思ってて、それは目の前に行ってる体験っていうのがおっきかったなって思って。
田崎:うーん
大北:理科の先生と話したときに、「理科って結局ストーリーだから、目の前で汗かいて手動かさないと意外と分かってくれない」って話してて
田崎:へぇー
大北:「それは物語だからだと思うんですよ」って理科の先生が言ってて。で、サピエンス全史的なあれですか、って言ったらまさにそうですって言ってて、ああそうなんだって。でも、「語る側」のことばかり僕は気にしてたけど、今田崎さんが話してたのは「語られる側」のことですよね。
田崎:そうですね
大北:嘘をつく、つけるようになったのが人間だったけど、そこから想像するってことができるんですね。すごく人間的、人間だけかもっていう。
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一人がここにいるということ
ー喋ることや嘘についての話が続くー
大北:この芝居においてそれらは結構重要なとこに持ってこようっていう意識はありましたか。
田崎:どうだろ、そうですね…まずは横山さんといろんなエピソードについて話して、それらを書き起こしていったのでテーマとかはそんなに決めずに書いたんですけど、
大北:とりあえずいろんなエピソードを並べていく、みたいな?
田崎:そうです。今回、書くときのルールとして「とにかく具体的にする」っていうのは決めてて。だから名詞をすごい出してて。どこで何があったとか、どんな状況でどんな人でとか、ディティールをとにかくはっきりさせるっていうのは気にして書いてて。一個人の人生って、その時代に起きてることだから、超個人的なことだけど普遍性もあるというか。とにかく個人的なエピソードにしていくっていうのは気をつけたけど…
大北:なるほど。『マンゴーと手榴弾(著・岸政彦)』を参考文献みたいな感じで挙げてるのって、その辺の語りのディティールを残しましょうっていうところは大きいんですか。
田崎:そうですね。個人的な体験が、でも時代で起きてることの影響って絶対受けてるから
大北:個、とか小さい、パーソナルなものが普遍的なものであるっていうような感覚ですかね
田崎:そうですね…
大北:今の時代を生きてる一人の証言が全体を表すのではないかっていう
田崎:うーん、どうなんだろ
大北:そこまでではない?
田崎:うーん…ものすごく個人的な、ミクロな方にいくことで、個人のことだけどそうじゃないっていうか、うーん…今を切り取る一つになる…あとは、いろんなことが数で測られるけど、今だと感染者数とか、このくらい大変ですっていうのが数で語られるけど、そこの1というか、一つ一つに顔があって声があるというか、それが集まってその数になっている、その1をちゃんとやるみたいなことを…
大北:なるほど。それは、そうですよね、思いました。一人でやることの意味ってそれもあるなって。一人でやってるからこそその人のことがずっと出てくるし、すごく私小説的だなって。ブログとかエッセイに近いのかもしれないなって。みんなこの形でやって、何十人とかみたら面白そうだなとか。もっとみんなやっても面白いんだろうなって思ったんですよね。まあすごい大変でしょうけど(笑)
田崎:そうですね(笑)
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大北:あともう一つ参考にしてる作品として『フリーバッグ』を挙げてたじゃないですか。みてて、『フリーバッグ』的なものとして性的な表現もあるなと思ったんですけど、
田崎:そうですね
大北:女性がベッドシーンで、ここをこうして、ここをこうして、ここをこうするーみたいな、ぽんぽんぽんって連続技みたいにして言うじゃないですか。それ、書けないなと思って。女性側じゃないと書けないなって言うか、男性側じゃこんなこと書いていいのだろうかというか。リズムで。いや、でもそうか、書く人もいるな…(笑)
田崎:(笑)
大北:あ、そう、書く人もいる、が、書けないんじゃないかなって男性だと。女性だから書けるんじゃないかなって思ったところがあったんですよ。
田崎:あー、たしかにたしかに。なんでしょうねその差っていうのは
大北:そういう当事者性っていうのは結構いろんなところに感じたかなって思いました。なんか当事者性っていうのが。でもそれは本当じゃなくてもいいのか…ー電波が悪くなって声が聞こえにくくなっていくー
田崎:あれ、聞こえなくなっちゃった
大北:あ、今10秒くらい間がありましたね………
田崎:あら…
大北:あ、一旦録音止めます、
田崎:はいー
失礼をしたいたたまれなさから音声を聞き返すことにビクビクしていましたが、聞き返していると1時間をすぎたあたりから声がぼーっとしてきていて、もう、本当にすみませんという気持ちに…。
でもたくさん話を広げてくださって、改めて聞き返すと作品や一人芝居についてなどなど面白い話ばかりでした。
本当にありがとうございました。
先日、アーの演劇『一つきりの夜に』を観たのですが、とても面白かったのです。
演劇もコントもデイリーポータルも、大北さんの仕事は当たり前を疑って解放していくような、でもユーモアがあって決して押し付けがましくて、そのバランスが私はとても好きです。いいなぁと思う先輩がいることとてもありがたいです。にも関わらず失礼をしてしまい…いやはや。気をつけないと。